高麗茶碗考2

1. 高麗茶碗と御本茶碗

 ここでは便宜上、高麗茶碗とは「抹茶茶碗としての用途を意識せず、朝鮮国内用途のみを考えて作製された茶碗様陶器」を指し、御本茶碗は「日本の茶人などからの注文によって朝鮮半島で作製された陶器を指す」と定義する。この高麗茶碗と御本茶碗を比較する際に重要になるのは、第一に抹茶碗としての用途を意識して作製されているか否かということだが、付随して、さまざまなことがいえるだろう。

 例えば、どのようなものが現存しているか、ということ。高麗茶碗の場合は、膨大な製品のなかから、まずは抹茶碗という用途で使用可能、茶の美意識に照らして景色、見どころがあるといった条件によって選ばれたもので、当時の平均的製品像と茶道具として取り上げられた伝世の茶碗群では、様相がかなり違っていると考えるべきだ。つまり、歪みのような面白さがあったり、雨漏りのような景色があったり、釉薬が面白く掛かっていたり、カイラギや石はぜ、ベベラなどが発生していたり、片身替わりや窯変が出ていたりといった、言い換えれば「奇形」的なもの=少数派だけが選抜されたのがいわゆる高麗茶碗という一群であるということである。設計段階では組み込まれていない、製造過程において偶然、期せずして少量発生したエラーものが濃縮されている、というのが実態だろう。そうであれば、当時の平均的な製法を再現することで、伝世している高麗茶碗を再現しようとすれば、当然ながら万が一の偶然に頼るしかないということになる。

 一方の御本茶碗は、抹茶茶碗として作られたもので、見どころや景色は、設計段階でかなりの部分が組み込まれている。そしておそらく、当時の御本茶碗の製品群の平均的姿は、伝世している御本茶碗の平均像に近いであろうことが想像できる。たとえば設計段階で組み込まれた見どころの一つとして、歪みを挙げることができる。おそらく期せずして発生した歪みなどの変形は、前押し、州浜形など人為的な変形に翻訳され、多くの御本茶碗に導入されている。このことは逆説的に、意識せずして茶碗を作製すれば、大部分は歪みなどの変形の少ない、面白くない茶碗になってしまうということを証明しているのである。御本と呼ばれる窯変は、たとえば雨漏りなどのように高麗茶碗で発生する装飾的な見どころの代用とみなせるかもしれない。ヘラ目や人為的と思われる指跡、ベベラなどの造形的な「アヤ」も、本来は製造時に期せずして発生した「キズ」の代用と解釈できそうだ。

高麗茶碗考 仲森智博著

2. 高麗茶碗の作製条件

 高麗茶碗の製造を考えるとき、よくよく考えなければならないのは、当時の状況であろう。まず、陶工は芸術家でもなんでもなく、ただ用途を満たす器をなるべく低コストに量産することを意識し、別に美を意識して製造していたわけではないということである。つまり、高麗茶碗の様相は、美という軸ではなく、生産効率(コスト削減)や量産性という軸で理解すべきということである。美は、製造後の「茶道具として取り上げる」という段階において発現するもので、設計時にはある程度は意識されていたとしても、製造時ではほとんど顧みられることがなかった要素であると考えるべきだろう(御本茶碗の場合は、設計段階でそれが組み入れられている)。

 その前提に立って、当時の陶工は「低コスト」に製品を作るために何をすべきと考えていたかを推論してみたい。

・粘土や燃料は、現在に比べれば、相当に貴重で高価であった(その採取は人手に頼るしかないので)。それが遠隔地でしか採取できないものであればさらに高価なものになる(トラックはなく、人馬で輸送するしか手段がなかったため)。このため、なるべく節約して使おうようとの強い意識が働いたはずである
→重ね焼きでなるべく多くの茶碗を積み重ねられるような造形、形状
→1碗あたりの土の使用料の少なさ(生地の薄さ)、土取の少なさ

・コストを下げるためには、同じ時間で多数の製品を作製する必要がある。つまり、一つの茶碗を作る時間を限りなく短縮する必要があり、そのためには粘土を柔らかくし、ロクロの回転をなるべく早くし、少ない手数、短い時間で茶碗を形成したはずである。さらにいえば、水挽きでほとんどの形を完成させ、その後の工程は、ごくわずかの高台内、高台外の削りだけで済むようにしたはずである(手間なのにあえてそれをする訳は、厚さの不均衡を減らし、窯割れなどの深刻なダメージによる不良率の発生を抑えるため、つまり形を整えるのではなく、厚い部分の土を削って歩留まりを上げることが主眼)。
→歪みなど変形、指跡などの痕跡が発生する確率が上昇
→高台内、高台脇の削りの手数、土取りの少なさ
・釉掛けの厚さは必要最小限であり、釉掛けの時間はごく短かかったはずである。

 これらの基本的な考え方を理解することで、高麗茶碗ならではの形状、現れるクセなどが再現できるのではないか。さらに、こうした事項を意識的に強調することで、高麗茶碗に発生しやすいエラー=見どころを、高い確率で再現できるようになるのではないかと思う。

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3. 釉薬に関する愚見

 釉薬に関してはまったくの専門外なので、あくまで妄想である。釉薬は土と灰(アルカリ)という、単独では融点が高いものがまじりあうことで、融点の低いガラスに変化するという特性を基本的には利用している。その釉薬には主に三つの考えがありそうだ。

・ガラスやガラス質の鉱石を粉末化したものを再融解させガラス塗膜とする
・灰と土をまぜたものを加熱、溶融状態でガラス化させガラス塗膜を形成する
・灰を土に塗布し加熱することで、土の一部をガラス化させ、ガラス塗膜状にする

 このうち、最も原始的で製造コストの低下、量産性の向上に有利なのは3番目であろうか。化粧土の役割も、装飾ではなく生産性という軸で考えれば、3番目との組み合わせにおいて重要な意味をもつとも考えられそうだ。