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以織窯

以織志野茶盌

〈2021年11月26日フェイスブック掲載記事をそのまま載せます。〉

焼きが甘い。未完。ともかくも入り口。ここから始まる。
「桃山志野釉は長石にあらず」と夢想して6年、土と石と灰汁(アク)を焼いて長石にするのが以織志野。
現代の科学分析結果から導き出した答えだ。
志野特有の緋色・柚肌の仕組みも、以織なりに解けた。古志野の柔らかな釉肌に辿り着くまで、老体に鞭打つ所存。
※若い陶芸家さん達に読んでいただきたくて以下の長文を書きました。
昭和の名工達は苦労の末、長石単味釉を使用して美しい志野が焼けることを世に知らしめました。
以来、長石志野の素晴らしい作品が生まれ続けています。
以織は現代長石志野の美を否定するものではありません。
ただ15年ほど前、岐阜の陶磁器研究者が桃山志野釉と現代長石志野釉の組成に
違いがあると報告しているのを知りました。
現代長石志野釉に含まれるソーダ分が桃山志野釉には微量しか含まれず、
桃山のそれは純粋カリ長石に近いというものでした。
その頃、以織は井戸の試作に没頭していたため、さほど気に留めませんでした。
が、6年前ネット上で「中近世施釉陶器の自然科学的研究」というpdfを見つけて、
俄然、桃山志野への関心が高まりました。
このpdfには15〜18世紀に至る唐津、瀬戸、美濃産の陶器の素地土と釉薬の科学的分析が載っています。
そして唐津も瀬戸も美濃も釉薬中にソーダ分がほとんどゼロ含有という不思議に目を見張りました。
この研究者は長石を使用したと結論しているのですが、
火山国日本においては純粋カリ長石の生成は難しいという鉱物学者さんの指摘を読んだことがあります。
輸入していたとしても中部地方の山奥まで流通があったのでしょうか。
加えて志野釉分析中に微量なカルシウム分があることも疑問です。
なぜなら純粋カリ長石にカルシウム分は含まれないそうだからです。
焼成にほとんど関係しないほどの木灰をわざわざ混入した桃山陶工の意図はなんなのでしょうか。
以織は灰汁生成中に灰分が自然に混入したと考えています。
もうひとつ別な分析結果をご紹介します。
2016年、岐阜県可児市が発行した「大萱古窯跡群発掘調査報告書 1」という名の
牟田洞と大萱古窯の詳細な報告書がpdf化されているので、
機会があったらぜひ覗いてみてください。
200ページ近い膨大な報告書の143ページに桃山志野釉薬について短い考察があるのですが、
志野釉の原料を長石だと断言できずにいるのです。
以上のことから、長石以外で古作陶工の身の回りにあった材料にて、志野が焼けるのではないかと推測しました。
そして入手可能な材料として土と石と灰汁を選びました。
土は志野の素地土、鉄分の少ない白土でしょう。
石は瀬戸美濃地方に豊富にある珪石。水簸して細かいものを採っただろうと
(珪石分については植物由来という発想もあって、こちらも試験中)。
灰汁は木灰から得る炭酸カリウム。桃山時代、火薬製造の材料です。
信長が美濃陶工に灰汁を作らせていたと読んだことがあります。
ただ困難なことが起きました。灰汁つまり炭酸カリウムは水溶性なのです。
同量の水に溶けてしまいます。
素地土に吸われてしまうし、焼成中に蒸発もしてしまう厄介者です。
これでは安定した釉薬になりません。それで6年もかかってしまった次第です。
ともかくも桃山志野釉の分析結果が長石に近かったために「志野は長石釉」という説が流布してしまったのでしょう。
私思うに「桃山志野は長石にあらず」です。

《更新情報》

令和4年3月8日;昨年末Fb掲載の以織志野茶盌記事にて久しぶりの更新

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